ジャパンサミット2010

by Julian Ryall
ジャパンサミット2010 日本の世代交代:新しいリーダー、新たな展望

日本が直面する困難な問題は数多く、それ は複雑にして刻々と変化している。しかし エコノミスト・コンファランスが昨年12月 中旬にジャパンサミット2010と題して催し たシンポジウムからは、次のようなメッセー ジが導き出された。

「主要問題の大半はすでにその本質が明らかになり、対 応策も講じられつつある。国内政治は行き詰まりを見せ、 国の経済が注意しなくてはならない状況にあるのは明らか だ。教育と女性の役割については、新しい考えを取り入 れることで得るものがあるだろう。しかしこれらの問題で克 服できないものはひとつとしてない」同シンポジウムではこの ような見解が示されたのである。

従来からある枠組みにとらわれることなく考え行動し、他 国の経験から学ぼうとする積極的な姿勢が日本に求められ ている。そして変革を実行する断固たる態度だ。なんと言っ ても日本は第二次世界大戦の荒廃から見事に立ち直った 国である。現代の日本人は、戦後の復興を果たした世代 の血を継いでいるのだから、あの当時のガッツを引き継いで いるはずであろう。一部から“経済的に失われた20年”など と言われている今の時代からも再生できるはずなのだ。

『日本の世代交代:新しいリーダー、新たな展望』とサブ タイトルのついたこのシンポジウムでは、政界、実業界、 研究機関、市民団体から経験を積んだリーダー、また新進 リーダーの両方をホテルニューオータニに招き、日本を元 気にする方策を話し合った。

終日行われたシンポジウムは、マイクロソフト社のケビ ン・ターナー最高執行責任者のインタビューで幕を開けた。 ターナー氏は、日本は技術的に進歩していることでは世界 的にも屈指の国であるのに、この国の中小企業がせっかく のノウハウをあまり使っていないことには驚くばかりだと指摘 した上で、クラウドコンピューティング・テクノロジーなどは その好例だと話した。

「ラップトップや携帯電話から得られる利便性という点で、 日本は他のどの国と比べても非常に進んでいるというの に、小企業はあまりこの分野に資本を投下していないよう です」とターナー氏は言う。「中小企業は持っている能力を 解き放って、たとえばデジタル広告やマーケティングを行う べきでしょう」

若きリーダーからなる新世代に希望を与えることも、日本 全体にメリットをもたらすと氏は言う。

「今の日本が持っているシステムは、他に依存することな く非常に成功を収めています。しかし可能性を秘めた人に チャンスはあるし、あるいはいいアイデアを持っている人に ――年齢やバックグラウンドに関係なく――チャンスを与え ることもできるでしょう。

「ときには失敗することもあるかも知れませんが、新しい アイデアを伸ばすことに意味があるのです」と氏は続ける。 「ウィナーになる人もいれば、そうでない人もいます。しかし やってみないことには、なにもわからないわけです」

この日最初のパネルディスカッションでは、これから成長 が見込まれる産業、新たに生まれた産業を支援するのに 果たすべき政府の役割、日本が国際的な競争力を強める 方策などを考えた。席上、<エコノミスト>のアジア地区シ ニア・エディターで、インダストリー&マネージメント担当の デビッド・ライン氏は、日本企業の99パーセントは中小企 業であり、日本が繁栄するにはこの中小企業が強くなる必 要があると強調した。ところが景気後退のダメージを手ひど く受けているのがまさにこの中小企業であり、資金を調達 するにも、腕のいい技術者を見つけるのにも苦労をしてい るのが現状である。

「日本の未来は経済面での体力増強にかかっています」 と言うのは長谷川閑史氏、武田薬品工業取締役社長だ。

「この国の政治家に求められているのは、20年後に望ま れる日本について明確なビジョンを持ち、ビジョンと現実と のギャップを埋めるには今なにをすべきなのかを明らかにす ることです」

企業はもはや国内需要に依存することはできず、新たな 市場を求めて海外に目を転じる必要がある。それなのにこ れを支援する国レベルの適切な政策はほとんど講じられて いないのだと長谷川氏は続ける。

「長期計画を導入することが求められています。日本は今 以上に多様性のある見通しを立て、従業員の多様化にも対 応することになります。さもないと世界に出て行って、自分とは 違うビジネスのやり方に対応できないでしょう」と氏は語った。 次のパネルディスカッションのテーマは人的資源。ここで は伊藤忠商事でコーポレートカウンセルを務める茅野みつ る氏が、日本がフルに活用できていないもうひとつの資源 が女性の労働力だと指摘する。

「日本人は内側に目を向けがちです。企業の人材への 取り組みも内向き指向で、みすみすビジネスチャンスを失っ ています」茅野氏は、日本企業は十年一日のごとく大学を 出たばかりの若者を採用していると言う。「私たちは女性と 外国人による労働力、それに中途採用者をもっと必要とし ているのです」

日本の政治の現状を主題としたパネルディスカッションで は、司会を務める<エコノミスト>のヘンリー・トリックス東 京支局長から、現在危機的状況にあり、一般市民は権力 を奪われ、自分ではどうにもできないという無力感を感じて いるのでは、との発言があった。

マサチューセッツ工科大学で日本の政治の専門に扱うト バイアス・ハリス氏は、この問題を「良い」、「悪い」、「最悪」 の3つのカテゴリーに分類する。

肯定的な部分を言うなら、民主党は韓国、インド、オー ストラリアとの関係を改善したことと、国内政治に新世代 の人材を導入したことをもっと評価されて然るべきだとハリ ス氏は語る。悪い部分は「政府がアイデア不足なこと」と、 方向性を失っていることだと指摘。そしてハリス氏が予想す る「最悪」の政情とは、よくなるチャンスを捉えるまえに悪化 して制度改革を推し進められなくなり、その結果時間がかか り、民主党が現在の泥沼状態から出口を見つけられずに いることだと言う。

次のパネルディスカッションでは、日本が直面している人 口構造の問題と、国の経済が高齢者世代と協調しながら うまく作用する方策、流通していない“埋もれた宝”を発掘 できるような税制制度について考えた。

最後の基調講演は当時内閣官房長官を務めていた仙 谷由人氏が行い、この日討議された問題の一部に触れて 政府の考えを説明し、対応策を述べた。

ますますグローバル化が進む世界で、希にみる経済沈 滞に見舞われた日本では財政拡大が大規模に行われて金 利が下がった結果、企業が利益を上げるのが難しくなった と仙谷氏は示唆した。

グリーン・テクノロジーとヘルスケアにおける革新的な技 術は日本にとって成長エリアと認識されており、日本の労働 者は新しい活力を与えられれば、強力な経済成長に貢献 する力を秘めている。これからの日本は海外市場を開拓し、 企業では女性の地位が向上し、実力のある人はどんな分 野であれ、それを発揮できるチャンスがあると仙谷氏は言う。

「明治時代の文明開化、そして第二次世界大戦が終結 した1945年に続き、日本は第3の開国の時代にあります」 と仙谷氏は続ける。「公共部門を開放し、未来に向かって 門戸を開く。これを日本だけの視野で捉えるべきではなく、 国境を越え、他国の市場を活用しなくてはなりません。日 本のテクノロジーと“やる気”は自国だけでなく、海外の成長 を確たるものにできるのです」