秋はぜいたくに浸る最高の季節

by Catherine Shaw
秋はぜいたくに浸る最高の季節 秋はぜいたくに浸る最高の季節

私は初めての「スキンシップ」(日本で伝統的な温泉に共に浸かることで生まれると言われる特別な絆)の体験を、決して忘れることができない。まだ来日して間もなくのこと、箱根の旅館の小さな露天風呂で他人の前で服を脱ぐことを恥ずかしいと思う西洋人の感覚にさいなまれていた私は、厳格に定められたエチケットを注意深く守って体を洗い、入念に泡を流してから、湯気の立つ水面におそるおそる近づいた。同じ湯に裸で浸かる人々と知り合うことなど考える余裕すらなかった。

ミネラル分が豊富に含まれたお湯に浸かるという古式へのデビューを果たす私を礼儀正しく見守っていたのは、八十代の女性と、にぎやかな中年女性のグループだった。

急いで体を沈め、おかげで多少の慎み深さをどうにか取り戻したところで、お湯の効能があらわれはじめた。筋肉がゆっくりとほぐれ、iPhoneもノートPCもテレビもない場所で心が落ち着き、温泉旅館に引きこもる行為に時代を超えた魅力があることがわかる。鉱泉は血液循環や関節炎などの幅広い疾病に不思議なほど効果があるだけではない。誰でも簡単にストレスを軽減し、疲れを癒すことができるのだ。

中立的で瞑想的な体験の共有もまた、驚くほど解放的で鎮静効果のあるものだ。それに加えて旅館の心和むもてなし、季節の新鮮な食材を使った料理、昼夜問わず一日何回もお湯に浸かる体験。温泉旅館に泊まるという習慣が千年以上人気であり続けるのも不思議はない。

要するに、旅館は時間を越えた日本のもてなし、芸術、文化、建築の究極の集合体なのだ。家族向け旅館から超高級旅館まで、温泉を売りにしている旅館を5軒紹介しよう。どうぞごゆっくり。

星のや 長野県軽井沢町

Ryokan都心から新幹線でわずか1時間。《星のや》は伝統と近代的な快適さの絶妙なバランスに加え、実に日本的な隠れ家を現代風にアレンジした旅館としてストレスの溜まった東京人に大人気の週末旅の目的地だ。また、英語を話すスタッフやエチケットについてのしおり、地図などのおかげで初心者でも理想的な体験ができる。プライバシーと利便性に重きが置かれ、布団は日中いつでも休めるように敷いてあり、食事の時間も柔軟に対応、さらに和洋のメニューを取り揃えたルームサービスは24時間利用可能だ。さらには音楽CDと本が充実したライブラリーラウンジ、スパトリートメント、エコツアーが用意され、近くには酒蔵もある。星のやの有名なメディテイションバスは宿泊客のみが利用でき、癒される温泉にスピリチュアルとさえ言える要素を加えた、絶対に見逃せない独特な体験をさせてくれる。ここで詳細に触れてしまうとお楽しみがなくなってしまうので割愛するが、特におすすめの体験だ。

古牧温泉 青森屋

通常、伝統的な日本旅館と小さい子どもは悲劇的な組み合わせだ。旅館の内装の多くが繊細な障子紙を施されており、何百年の歴史を持つ古美術が置かれている場所も多い。だから、数少ない家族向けの旅館が人気なのも当然だろう。本州最北の青森県三沢市に位置する《古牧温泉 青森屋》はその広大な敷地にホテルのような設備、レストラン、娯楽エリアに温泉を取り揃えており、こぢんまりとした伝統的な旅館とは程遠いかもしれないが、幼い子を持つ親にとっては、昭和レトロな室内娯楽施設「じゃわめぐ広場」での民謡ショーやゲーム、見事な露天風呂で子どもを楽しませられる、天国のような場所だ。部屋は和室と洋室から選べる。英語はあまり通じないが、スタッフはもてなしの心にあふれており、サービスは気取らず心地よい。 ヒノキ風呂と露天風呂が木々に縁取られた池の中に浮かぶようにしつらえられ、夜にはライトアップされる。子ども達はお湯をはね散らしたり興奮して歓声を上げたりしても温かく受け入れられる。さらに緊張をほぐしたければ、リーズナブルな価格のフットエステが昭和初期をイメージした「うるほい横丁」で受けられる。

静岡県 arcana izu

客室わずか16室、このうえなくシックな《arcana izu》は東京から2時間。静岡の森林に囲まれた隠れ家で、本気ですべてを忘れて遠出したいが、一定水準の贅沢さは維持したいデザイン重視の旅人にうってつけだ。木と煉瓦をあしらった現代風のしゃれたインテリア、暖炉や家具を大阪に拠点を置くデザイン集団《グラフ》が手がけたことで有名なこの旅館はその目を見張るような自然の森という環境でもまた知られている。一番の人気の理由は各部屋のバルコニーにしつらえられた専用の露天風呂だろう。洗練されたスパでは《Thann》製品が使われ、どれだけ疲れた旅人でもストレスを軽減して若返ることができる本物の日本式セラピーが、驚くほど幅広い種類で用意されている。料理もまた見事なもので、素晴らしい森林風景が眺められるダイニングルームで取るとより一層おいしく感じられる。

強羅花壇 神奈川県箱根

25この有名な高級旅館は元々皇族の夏の保養所として使われており、伝統的なもてなしの心と近代的な快適さを組み合わせ、古きと新しきの融合に成功したために、おすすめ温泉旅館の最上位に挙がる事が多い場所だ。東京から南へ約90キロ、富士箱根伊豆国立公園の森の中にある《ルレ・エ・シャトー》所有の旅館であり、指圧からフェイシャルまで幅広いセラピーの数々を提供する庭園スパは疲れた旅人の天国だ。「なめらかで柔らかい肌になれる」と評判の鉱泉は二つの源泉から引かれ、驚くほど広い44の客室のうち7室には専用の露天風呂もついている。また、大浴場と露天風呂も二箇所用意されている。

扉温泉 明神館 長野県

こちらも《ルレ・エ・シャトー》所有の《扉温泉 明神館》は城下町松本市の程近く、静かな八ヶ岳中信高原国定公園内に位置し、日本アルプスを眺めることができる素晴らしい自然環境が人気だ。部屋はシンプルな和室からエレガントな洋室まで幅広く、どれも禅に似た落ち着きあるインテリアと息を飲む山並みが楽しめる。一部の客室には誰にも邪魔されずゆったりとリラックスできる、特注の風呂が設置されている。大浴場には寝湯や独特の立ち湯「雪月花」があり、お湯は関節炎や胃腸の病気に特に効能があるといわれている。旅館の絶品料理は伝統的な日本懐石、モダンな創作和食、オーガニックフレンチから選べ、旅館所有の有機農場で収穫した新鮮な野菜が味わえる。

歴史 旅館の始まりは17世紀、参勤交代で江戸(現在の東京)へ旅した大名達の宿泊所としてだった。火山の多い日本の地形のおかげで、何千もの源泉が存在する。日本の法律によれば、温泉水は湧出温度が25℃、鉄分や硫黄分などの鉱物を一定量含んでいなければならない。泉質表示が義務付けられている。

出典 The Ryokan Collection: www.ryokancollection.com
『Ryokan: Japan’s Finest Spas and Inns』関昭彦、Elizabeth Heilman Brooke共著
日本政府観光局:www.jnto.go.jp