日本から初めてのマスター・オブ・ワイン登場

by Catherine Shaw
ネッド・グッドウィン氏 ワイン界究極の難関を突破した男のストーリー

ロンドンに生まれてオーストラリアで成長し、東京とパリで教育を受けたネッド・グッドウィン氏は、世界のワイン界のエリートである281名のマスター・オブ・ワインに加わった唯一の日本在住の人物だ。世界各国の極上ワインの美点をただ褒めそやすのではなく、家族で楽しめ、お客さまの興味を引くワインリストを東京のレストラン用に作ったことの方が誇りです、と本人は語る。

「素晴らしいワインを選んでお勧めするのは、それほど難しいことではないのです。むしろ様々なお料理に合い、なおかつお客さまの意に適うお値段のワインを見つけることの方がずっと難しいですね」。超難関なことで知られるマスター・オブ・ワインの資格授与式から東京に戻ったばかりのグッドウィン氏はそう語る。ワイン論の試験を受けるのに、実にほぼ7年、集中的に勉強を続けたのだという。

ッドウィン氏は日本のワイン界にやって来たときのことを思い出して、思わず声を出して笑った。「私が日本にやってきたのは10年前のこと。ニューヨークの非常に高級なレストランで経験を積み、ソムリエとしての名前もよく知られていました。あのころの私はエネルギーの塊でしたよ。日本ではタキシードに身を固めたソムリエが幅をきかしていました。この国に定着したやり方に揺さぶりをかけてやろうと本気でそう思いましたね。若かったのです。しかしシステムを変えるには、まずはその中で働いて、理解することから始めるべきだとまもなく悟りました」。

日本のワイン市場ならではの特質も、学ぶべきことのひとつだとグッドウィン氏はすぐに気づいた。「どのワインにもそれぞれに相性のいいマーケットがあるのです。世界にはシンプルだけれどもバランスがよく、価格の割に優れたワインがいくらでもあります。マスター・オブ・ワインのコースで『客観的にワインを見る目』を学びました。プレミアムなワインだけでなく、英国を中心にスーパーマーケットで売られる多種多様な初心者向けのワインを始め、世界中のワインを試飲しました。ワインリストに奇抜な名前のワインを並べ、知られていない銘柄を市場に導入しようとするなら、やはり直接レストランにいって説明しないと注文はもらえません。特にワインを扱うのが初めてのお店ではね。しかし、会話に弾みがつき、お料理とよくマッチした、飲みやすい銘柄を提供する方がもっと大切です」。

これまで味わったなかで最高のワインはボルドーだったというグッドウィン氏だが、気温の高い東京で普段飲むにはドイツのリースリングワインが好ましく、ヘイマン・レーベンシュタイン・シーファーテラーゼンなどはフレッシュにして味わいが複雑、しかも甘すぎないのだという。「今ドイツワインは人気薄ですが、アメリカではとてもトレンディーだと考えられています。赤については、私の好みはずいぶん変わりました。今はシンプルなサンジョベーゼや、職人の技を感じるボジョレの良品を好んで飲んでいます」。

会話に弾みがつき、お料理とよくマッチした、飲みやすい銘柄を提供する方がもっと大切です。


日本から初めてのマスター・オブ・ワイン登場 「最近の傾向としてシャルドネの人気が落ちているようですが?」とグッドウィン氏に尋ねてみた。「事情通のあいだではシャルドネの新しい作り方が話題に上っています。特にニュージーランドやオーストラリアのようなワイン新興国で盛んですね」と答える。「私が最近試飲したなかで、価格に対してベストバリューのシャルドネは、ニュージーランドのクメウ・リバー・ビレッジ産でした。マスター・オブ・ワインの仲間である、マイク・ブラコビッチの作品です。ブルゴーニュ・マコン地区の製品をライバルに想定したワインなのでしょうが、よく健闘しています。日本にもジェロボーム社が輸入しており、値段は2,000円から3,000円、とてもいい出来です」。

世界でもっとも重要なワイン資格者の称号として認められているマスター・オブ・ワイン。広範囲にわたる理論、実践、論文作成からなるコースは非常に厳しく、一流のワインエキスパートでも途中で脱落する者が数多くいる。「並大抵の修行ではありませんでした」とグッドウィン氏も認める。「ワインの世界では才能は問題ではないのです。マスター・オブ・ワイン・コースとは忍耐力をテストする試験なのです。私もなんどか非常に苦しい時を過ごしました。私はまず理論テストに合格する作戦を立てました。経験を積んだソムリエですからテイスティングテストは楽だと考えたのです」。グッドウィン氏はにこやかにそう語る。「でもすぐに気づきました。課題として出たワインの正体を知ることだけがすべてではないのだとね。つまり試験時間を有効に使うタイムマネジメント能力も求められるのであって、テイスティングをしたらすぐに論文に取りかかる、これをシステマチックにこなすのです。受験者のなかにはグラスからなかなか手を放さず、試験時間が終了してしまったという人が大勢いました。全体のプロセスを理解して、受験テクニックを磨いておくことです」。

受賞してさぞ嬉しいでしょう? 「実はまだ実感がわかないのです。もちろん非常に嬉しいのですが、ホっとしたというのが正直なところです。6年半、ひたすらこれを目指してきたので、いい意味で全力を使い切った気分です」。