復活した伝統ブランド

by Simon Farrell
トライアンフ・サンダーバードトライアンフ・サンダーバードで都内をクルーズする

私が最初に乗ったトライアンフは、 1960年代のボンネビルだっ た。キックスタートするたびに 足首を擦りむき、オイル漏れは トライアンフの伝統だった。暖 かな夏の日のたそがれ時、ボンネビルにまたがった 私は、英国南西部サマセット州の草原を毎日走っ た。ヘルメットもライトもなし。気分は映画『大脱走』 のスティーブ・マックイーンそのもの。ただし映画の マックイーンは、ナチの追っ手が迫るなか、有刺鉄 線に引っかかって見事にずたずたにされるのだが。

1980年代のいつごろだっただろう、新聞でトラ イアンフが倒産したと知ったが、その後は気にも留 めなかった。しかし、今から3年ほど前に港区三田で トライアンフのディーラーを見つけ当時の事を思い 出した。そして私は、900ccのスピードマスターを 買った。

現在乗っているのは、世界でもっとも歴史の古い モーターサイクルメーカーのトライアンフが、ハー レーダビッドソンの向こうを張って2009年に放った 最新モデルのサンダーバードである。アメリカを代 表するビッグツインに、挑戦できる内容の充実した バイクだ。DOHCパラレルツインのエンジンは、電 子制御燃料噴射を備える液冷。排気量1597cc、 6速、ベルト駆動。サンダーバードはトライアンフ のラインアップの中で、おとなしめのクルーザーと、 ライダーを怖じ気づかせるロケットIIIの中間に位置す るモデルだ。

最初、私にはしっくりこなかった。どうにも格好が ハーレーそっくりなのだ。それに私のタンデムライ ダーはスピードマスターのシートになじんでいる。ス タイルこそ無骨だが、スピードマスターには、快適 なバックレストつきのタンデムシートがオプションで 用意されており、私のバイクにはそれが備わってい るのだ。しかし、サンダーバードでもシートの掴まり 方に一度馴れてしまえば、こちらのもの。WIFMの カメラマンの五十嵐淳は、安定した感じがし、シー トは快適、乗り心地はスムーズだと言う。

3月の終わり近く、私は3日間にわたり都内をゆっ くりと流した。信号で止まったり、カフェの前でた たずんだりしていると、通りがかりの人は興味津々 だ。質問に手際よく答える。私は、素早い加速、 スムーズな乗り心地、クラシックなスタイルに感嘆 した。ちなみに、都内では、ほとんどトップギアに 入れられない。それほどパワーが潤沢なのだ。

もう一人、女性タンデムライダーの感想を紹介す る。協子さんの感想は、エンジンのサウンドが滑ら かで、見た目もクラシックで、乗った感じは安定し ている、と言う。それに大勢の人から羨ましそうに見 つめられているのにも気づいていた。

タンク容量は22リットル。スイッチを押すごとに、 ガソリン残量から算出した航続距離、積算走行距 離、時計がデジタルパネルに順番に表示される。 煩わしいフューエルコックやチョークなどはない。そ れにもちろんキックスタートの必要もない。

ああ、物事は変わっていくものだ、と私は思い出 にふける。言い忘れるところだった。オイル漏れも なしだ。当然である。自分のスピードマスターにま たがると1974年に戻り、またスティーブ・マックイー ンの気分になる。どちらかといえばおっとりした走り、 トップヘビーでやかましく、排気ガスには煙も混じ る。どれもこれもサンダーバードとは大違いだ。