日本の企業風土を変革する新たな動き世界規模で展開している起業家 フォーラム、<グローバル・ア ントレプレナーシップ・ウィーク (GEW)> が、2009年11月 16日から9日間にわたり85カ 国で開かれ、各国のセミナーやイベントの場で数々 の難問が呈示された。日本の運営委員が知恵をし ぼったのは次のようなテーマ。「起業家精神に影響 を及ぼしている日本独特の要因とはなにか?」、「こ の国の起業家は潜在的に非常に大きな能力を持って いるのにそうした能力を眠ったままにしていいのだ ろうか? またその能力を国内にだけ向けていれば いいのだろうか?」、「海外の起業家は日本でどれ ほど異彩を放っているのだろうか?」、「鳩山首相は 2020年までにCo2排出量を25パーセント削減する と表明したが、ビジネス界はどのようなチャンスに 恵まれ、どんなリスクに遭遇するのだろう?」。
日本の起業家精神に影響を及ぼしている要因を
テーマに、初日がスタートした。『グローバル・アント
レプレナーシップ・モニター』という国際的なレポー
トでは、日本の起業家は主要国のなかでも最低の
評価を受けている。このことからもわかるように日本
は大きな課題を抱えているのだ。求められるのはや
はり政府レベルのバックアップのようだ。鳩山政権について質問を向けられたシノベイトヘルスケア・
ジャパン・リミテッド取締役社長のビル・ホール氏は、
「規制緩和がこのまま進むのかどうか、鳩山政権が
目指しているものとは一体なにか、この2点が今ひ
とつはっきり見えてこない。ビジネス界はここに懸
念を抱いているのです」と語った。続いてホール氏はこんな疑問を投げかけた。現 政権は小泉・竹中路線とは逆の方向に進もうとして いるのだろうか。また、羽田と成田の両空港拡充を 始めとする、これまでタブー視されてきた議案を推 進し、その一方で「地方活性化に向けた予算を盛り 込む」つもりがあるのだろうかと。
つまるところ、起業家になろうという志は身体の 中から湧き出るものであり、自信と情熱と創造性に 立脚するものである。理想を言えばそうした考えは、 様々に異なる考え方を受け入れることで育まれてい くのが望ましい。日本でドミノ・ピザのビジネスを始 めたヒガ・インダストリーズの代表取締役社長ヒガ・ ア-ネスト・マツオ氏は次のように語る。
「中国、韓国、インドの学生のあいだで、海外の 一流大学に入学するための競争がヒートアップして います。ところが海外の一流大学で勉強する日本人 の数はこれと比べると少ない。結果的に日本人がトッ プクラスの知識に肌で触れるチャンスは減少傾向に あるのです」
もう一度、ホール氏の発言に耳を傾けてみよう。
「カルチャー」と「慣習」との違いを間違って認識し
ていることが、日本のビジネスを弱体化している要
因だと氏は指摘する。この国は非生産的なビジネス
のやり方にしがみついている。ひとつ例を挙げるな
ら、日本では女性は生涯働くのではなく、育児を優
先すべきだというのが昔からの決まりごとになってい
る。しかしこれは慣習であってカルチャーではない。
『日本人は英語を話せない』という考えの根底にあ
るのもやはり慣習である。カルチャーから慣習を引
き離すのは容易なことではないが、多種多様なカル
チャーのなかでコミュニケーションを取り、働く能力
を身につければ、このふたつを分けて考えられるよ
うになるだろう。ただ日本にはこういう能力を会得す
る現場がないので、結果的にこの国の起業家にとっ
て、国内市場を抜け出て海外で競争するのが難しく
なっている。チャンスはいくらでもあるのに。これが
ホール氏の見解だ。日本の企業内で起業家精神と革新的発想を育も うとする考えと、日本の企業風土は鋭く対立する。 慶応大学の教授で、iモードの開発者である夏野剛 氏は、社員がリスクを冒して起業家精神を発揮した ところで、日本企業はなんの報酬も払わないと言う。 夏野氏がiモードを実現できたのはひとえに情熱のた まものであり、リスクをかけたのでも、報酬の裏づ けがあったのでもない。前出のヒガ氏が言葉を継ぐ。
「製品のライフサイクルが非常に短いので、独創
的なプロジェクトの進展を促す時間などほとんどな
いのです」坂井直樹氏の考えは違う。創造性とは考えるプロ セスから生まれるもので、価値観やものの考え方が 変わりつつある現代、私たちは“デザインを考える モード”に移行しつつあるという。つまり経済はモノ 作りから、知識、革新的思考、デザイン(より正確 に言うなら、デザインが担う社会的な役割)へと移 行しつつあるというのだ。価値観が変わればイデオ ロギーも変わる。イデオロギーとは、私たちのもの の見方や考え方を成り立たせる体系、ビリーフシス テムのこと。ビリーフシステムが変わればデザイン も変わる。こう考えると、グリーンエコの分野で専 門知識がある日本に、がぜん大きなチャンスが開け てくる。電気自動車とバッテリーの研究開発に数十 年の実績がある日本はキープレーヤーなのであり、 とりわけバッテリーの外寸を統一化する段階では重 要な役割を果たすだろう。ここで大切なのは政府が 主導して、電気自動車の普及に不可欠のインフラを 導入すること。これなしには革新的なハードウェアを 作ってもほとんど意味がない。
経済学者のジェスパー・コール氏は、日本にとっ て最大の難関は情報と知識を次世代に継承すること と、実態に基づいた統計データを作ることであり、 そのために古い世代は若い世代にチャンスを与える 義務があるのだと言う。日本の大学の大半もこの意 見に賛成で、アイデアを醸成するための研究室を 用意し、年長の研究者や起業家を招聘して必要不 可欠なアドバイスを学生に与えている。 GEWの運営委員は、こうした大学の動きは将来 有望なスタートポイントになるだろうが、日本の起業 家を後押しするためにやるべきことはたくさんあると いう点で一致した。





