人々がスキューバダイビングを
するのには、いろいろな理由
がある。海中探検のスリルを
味わいたい人もいれば、魅
惑的な珊瑚や色鮮やかな魚を
見たい、サメに遭遇したいと思う人もいるし、海
底洞窟や大昔の錆びた沈没船を探索したいと思う
人だっている。
しかし東京に住む多くのダイバーがこれぞダイビ ングの魅力だと断言するのは、海中の静けさだ。 マスクをつけて海中に身を投じた瞬間、通勤電車 の騒音も、テレビから聞こえるやかましい声も、上 司の文句も、はるか彼方に流されてしまう。
一見すると、西日本はダイバーにとってあまり魅 力的なところではないかもしれない。ハワイやカリ ブ海諸島、タヒチなどと異なり、一年じゅう降りそ そぐ陽光や温かい海水に恵まれていないからだ。
「そんなことは問題になりません」とは、10年前 から東京でダイビングスクール〈マー・スキューバ〉 を経営しているマシュー・エンドーさんの弁だ。
「スキューバダイビングは熱帯でするものだと思っ ている人が多いですが、東京などの関東地方か らアクセスの便利な伊豆半島近海は海水温度が高 く、いろいろな海洋生物が生息していることもあっ て、日本屈指のダイビングスポットとなっています」 と、ロサンジェルス出身のエンドーさんはいう。
エンドーさんによれば、伊豆半島はダイビング愛 好家にとって穴場中の穴場だという。ただし、国際 的に読まれているダイビング専門誌2誌が特集を組 んでからというもの、注目度はアップしているようだ。 「伊豆半島近海は海藻の森があり、じつに多様な 海洋生物の生息する世界有数の海域です。軟質 珊瑚も見られるし、夏の終わりから秋のはじめにか けては、フィリピンから黒潮にのって温帯魚や熱帯 魚が回遊してくるのです」とエンドーさんは言う。
都心から新幹線でわずか1時間のところにある ビーチリゾート、熱海は日帰りダイビングの理想的 な拠点となっている。しかも、船が沈没しても早々 に引き上げられることが多いなかにあって、東日本 では数少ない沈没船スポットがあるエリアだ。
沈んでいるのは、かつて港の岸壁をつくるために
運航していた大型砂利運搬船の残骸だ。海上で台
風に襲われて船体がふたつに折れ、33メートル下
の海底に沈没した。ネンブツダイの群れに囲まれ、
船体の窪みや割れ目にはウツボが巣をつくってい
る。エイや、足の長いクモガニがしょっちゅうやってくるし、海綿動物や軟質珊瑚が船の表面を覆っ
ている。近くにはソウダイ根というダイバーお目当てのス ポットがある。海面からわずか5メートル下まで岩 の尖塔がそびえており、先が鋭くふたつに割れて、 40メートル下の砂地の海底までドロップオフしてい るのだ。
海岸をさらに南下すると、富戸、網代、北川(ほっ かわ)といったダイビングスポットが続き、いずれ も海洋生物の宝庫となっている。一方、なにが起 こるか予測のつきにくい神子元(みこもと)近海は 熟練ダイバーむきで、距離的に遠いこともあって、 週末に泊りがけで訪れるのが一般的だ。このあたり は夏にシュモクザメが見られることで知られ、オグ ロメジロザメやジンベイザメが目撃されること もある。
日本には、ほかにもいくつものスポットがある。 たとえば、沖縄諸島。石垣島近海ではマンタとダ イビングすることができ、与那国島近くの海底では 畏怖の念を起こさせる岩層を見ることができる。一 説では、歴史に記されていない古代文明の遺跡で はないかといわれている。
ダイビングスクール 東京都内と周辺にはダイビングショップが数多く あるが、<マー・スキューバ>も基本的なオープ ン・ウォーター・ダイビング・コースからインストラ クター・コースまで、幅広いPADI(Professional Association of Diving Instructors)コースを 設けている。ピーク・パフォーマンス・ボイヤンシー・ コース(水中で浮きも沈みもせず、理想の中性浮 力をマスターするコース)は人気がある。また、太 平洋のパラオ諸島に行く人々のあいだでは、ニト ロックス濃度を高めて、安全に長く潜るためのコー スを受講する人が多い。
上級コースには高度なテクニックが求められ、そ れをマスターするにはある程度時間をかけた訓練 が必要だが、基本コースはさほど難しくはない。 まずビデオを5本見て、PADIのテキストにある 5つの章を読み、各セッションの終わりに筆記テス トをうける。はじめのうちはごくわかりやすい内容だが、終わりに近づくにつれて、だんだん難しく なっていく。窒素の残余時間、実際の潜水時間、 減圧不要限界などを示す図表などが出てくるころ には、神経を集中しないとわからなくなる。こんな 勉強をするのは、テストに合格するためではない。 ダイビングには危険がともない、減圧のための時 間をまちがえれば、命にかかわるのだ。
机上の学習が終わると、プールダイブを5回おこ
なって、習ったことを実践する。浮力調節ベルト、
フィン、BCD(浮力調節のためのジャケット)、エ
アタンク、4種類もあるホースは、最初は扱いにく
くて厄介に思えるだろう。しかしいったん水に入れ
ば、まったく話はちがう初心者は一連の訓練を受ける。窒息せずにレギュ レーター(水中呼吸装置)をはずす。マスクも同 様だ。水中で装備をはずして、再び身につける。 浮力調節など、水中で発生する最悪の事態に対処 できるように多くの技術を学ぶ。
インストラクターは口を揃えて、そういった知識 が必要になることはまずありませんと言う。しかし 練習できるのは今しかない。転ばぬ先の杖なのだ。 プールダイブのセッションが終了し、実際に海 に潜る実習を4回受けると基本的な資格が取得で きる。ライセンスを浮力調節ベルトの裏につけて、 早速ダイビングだ。ちなみにこの世界では特殊分 野への道が数多く開けている。水中ナチュラリス ト、水中撮影、サーチ&リカバリー・ダイビング(水 中に落とした物の捜索・回収)、ドライスーツ・ダ イビング、夜間ダイビング、沈船ダイビングなど、 挙げればきりがない。
日本には、ダイビングに関して誤解されがちな 点がもうひとつある。かなりお金のかかるスポーツ だと思われていることだ。確かに最新の高級器材 には高額の値札がついているかもしれない。しか しマー・スキューバなら、海に入る前にダイバー が必要とする器材はレンタルできるし、基本的な ディスカバー・スキューバ・コースの費用はわずか 18,900円なのである。 スキューバの世界に飛び込むのに制限などない。 その先には無限の海が待っている。❖
RESOURCES
MAR SCUBA
http://www.marscuba.com/
DISCOVERY DIVERS TOKYO
http://www.discoverydiverstokyo.com/
JAPAN UNDERWATER EXPLORERS
http://www.jue.jp/





