海中の旅

by Julian Ryall

amuzasubmarineファイナルフロンティアサブマリン社が、既存の旅に飽きたあなたのために新しい世界を切り拓く

もう海軍に入隊しなくても、潜水艇を操れる。

子供のころ宮川清貴さんにはなににも増して欲しいものがあった。自分だけの小型潜水艇だ。20年の年月と多額のお金を要したが、 宮川さんはついに欲しいものを手に入れた。それだけではない。自分の子供時代の夢を共有したいと思う人が他にもいるはずだと固く信じた宮川さんは、革命的な2人乗りレジャー用潜水艇を製造する会社を興したのだ。

「1996年にパースでプロジェクトを立ち上げたのですが、オーストラリアでは潜水艇の技術者と専門家を見つけるのが難しく、2002年に沖縄に移りました。そして昨年、2人乗り潜水艇の第1号を完成させたのです」と語る。「早くも10隻の注文が入っていますが、私たちには月産15隻の生産能力があります」と続ける。

「最初の1隻を今年中に引き渡す予定です。国内のお客様からも注文が来ていますが、はやり大半は中東の王室の方々とお金持ちに向けて輸出されることになります」。 潜水艇には1隻あたり、きっかり200万ドル(邦貨約1億9000万円)の値札がついている。

リッチマンならなんとしても次に手に入れたいおもちゃを売り込むのに、口コミに勝るセールスツールはない。だからまだ宣伝はしていないし、東京にショールームをオープンするのも1年半先になる、と宮川さんは言う。そのころまでに、レジャー用潜水艇のラインアップに少なくともふたつの新製品を加える予定だ。ひとつは6人乗りで、もうひとつは楕円形ドームの下に広々したラウンジを備えた10人乗りである。

同社には20人の技術者がいるが、今は最初のモデル「あずま」の細部を手直ししているところだ。あずまの船体はスチール製で、様々な最先端テクノロジーを取り入れたチタン合金で強化されている。

amuza-submarine全長約4.9メートル、全幅2メートルあまり、全高1.9メートル、自重3.4トンのあずまは、水中でも水面上でも最大速力20ノットを出す快速の持ち主だ。この小型潜水艇は120メートルまで潜ることができ、最低スピードで航行するなら3時間水中にいられる。動力源はリチウムイオン電池で、環境に配慮したウォータージェットが組み合わされる。

レジャー用潜水艇を作ったメーカーは他にもあるが、水中を自由に行動する能力にしても、操舵室にぎっしり詰め込まれた先進的な装備にしても、あずまと肩を並べる艇はなかった。

コンパクトなあずまは垂直に潜水と浮上ができ、一定の角度を保ったままでも、上下逆さまでも潜航できるし、自分自身を軸にくるくる回ることも、あるいは水中で宙返りを打つこともできる。艇はコンピューターで完全に制御され(ただし緊急時には解除できる)、GPSによる航法装置や、死角にあるものにも目を光らすモニター、三次元姿勢制御システム、そしてCDプレーヤーまでありとあらゆる装備を備える。

しかしなんと言っても目を引かれるのはアクリル製キャノピーだ。楕円形をしているので、操舵手も乗客も艇の周囲に広がる景色を360度眺めることができる。「他社のレジャー用潜水艇はスピードも遅く、軍用スタイルの構造なので舷窓も小さく、ほとんど外が見えないのです。このオーバル型がベストだと考えています」と宮川さんは言う。「手本になるものがないので作るのは大変でしたが、魅力的な形の潜水艇をつくるにはこの方法しかないと思います」。

このデザイン哲学は、次世代の一回り大きな潜水艇にも受け継がれることになる。外観はアーティストの描く宇宙時代のイメージそのもので、エンジニアたちはこのイメージをもとに設計を進めている。もうひとつのプロジェクトは、喫水線の下にハッチを備えたプライベートヨットで、ここから船体に納められたパーソナル潜水艇が姿を現すのである。

宮川さんは技術的なハードルにはなんの懸念も抱いていない。必ず越えられるという自信があるのだ。

「子供のころの夢でした」と本人は語る。「10年前にこれを実現しようとしたわけですが、その間、次から次へと問題に突き当たりました。しかし今では必要とする専門家と技術者を集めてチームを組んでいるので、こうした潜水艇を比較的楽に作れるようになっています」。