ベンチャー・サムライ

by Daniel McInnes
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保守的なビジネスの世界では、評判と取引関係がすべて。しかしスタートアップ企業にはそのどちらも与えられない。だからこそ成功するには人とは違う目のつけどころが不可欠だ。

日本の起業家が絶滅危惧種だなど、とんでもない。確かに経済界に暗雲が立ちこめた1990年代には少しばかり敗北を喫したかもしれない。企業は規模を縮小し、銀行は融資を渋ったものだ。しかしそんな当時でもチャンスはあった。成功に必要なものは人とは違う目のつけどころだけです、と堀義人氏は言う。



グロービス・キャピタル・パートナーズの代表取締役にして、東京、名古屋、大阪と3か所にキャンパスを持つグロービス経営大学院の理事長である46歳の堀氏は、日本には素晴らしいアイデアを持っている人が大勢いると力説する。

「笠原健治さんをご覧なさい。彼はまだ30になったばかりです」。オーストラリアのパースに構えるオフィスで堀氏はそう語る。ちなみに堀氏の5人の息子は地元の学校に通っている。笠原氏はソーシャル・ネットワーキング・サービスのミクシィを立ちあげた人物、ドルにして億単位の資産の持ち主だ。

2004年に携帯電話べースとウェブベースのソーシャル・ネットワーキング・サービス、グリーを立ち上げた田中良和氏もやはり現在30歳である。

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投資先として、ベンチャーキャピタル界から日本がかんばしくない評判を頂載してすでに久しい。2005年の投資額はわずかに18億ドル、アメリカなどと比べると雀の涙ほどの額に過ぎない。しかしこの数字を高めようと堀氏はもくろむ。

「強い起業家精神が求められることを私はハーバード・ビジネス・スクールで学びました。とことん可能性を信じれば、大きなことを成し遂げることができるのです。私は今、アジアでナンバーワンのビジネススクールをゼロから創ろうとしているのですが、必ずできると信じて取り組むしかないのです」。

現在、グロービス経営大学院は国内ビジネススクールランキングで3位に入っており、年間180名を超える人々がMBAプログラムに入学している。受講生の大半はトヨタを始めとする日本の最大手企業から送り込まれたビジネスマンである。1992年に最初の授業を始めたときとは大違いだ。資本金はわずか80万円、自分のアパートを事務所とし、会議室を一部屋借りてスタートしたのだった。

「私がハーバード・ビジネス・スクールを卒業したのは1991年で、そのころ日本にビジネススクールは2校しかありませんでした」と堀氏は語る。「ケーススタディーを取り入れたハーバードの教え方に深く感銘を受けました。答が正解なのか不正解なのかではなく、そこに行き着くプロセスが大切なのです。

「あそこでは本ではなく、人から学ぶのです。意見を交換し、他人の意見を共有することを通して学ぶのですね。日本にもこのようなスクールが必要だと思いました」。

住友商事に務めた経験のある堀氏は、サラリーマンが勉強のための時間を作ることの難しさをよく知っている。だから氏の大学院では熱意さえあればMBAが取得できるように、夜間や週末に勉強ができる。 それに、他のスクールでは理論をベースにした学究肌の教授陣を起用するのに対し、氏の大学院では在野の人材を教授に迎えている。

“サムライの精神を備えた”明日のリーダーを育てているのだと堀氏は言う。人間的にもプロとしても成長するのに必要な能力を身につけ、目的を同じくする世界中の起業家候補生との結びつきを構築し、最終的には自分の目的を発見し、自身の未来を描けることのできる人材を育成したいと語る。 ハーバード・ビジネス・スクール在学中に自分の志をしかと定めた堀氏は、後進のビジネスマンにも目的を達成する手助けをしており、そのためにグロービス傘下に独自の組織を作った。

「私には強い精神力が備わっており、どんなことでも無限にできると信じています。その信念のもと、どんなことにも全力をつくします。懸命に働くというのが私の会社のカルチャーでしてね。それに“突飛なことを考える”ことも私は得意なのです」。

既存のビジネススクールと同様のプログラムを作るつもりなど毛頭なかった堀氏は、3つのファンドを有し、約400億円の資産を管理するグロービス・キャピタル・パートナーズと、グロービス経営大学院をリンクさせた。大学院とベンチャーキャピタルを組み合わせることで、両者が互いの知識を高め、理解を深めることになり、学生と投資家の双方から同時に最大限の成果を引き出しているのだ。

ハーバードの教授法には歴史的な裏づけがある。これで起業家は危機を切り抜けてきた。堀氏は楽天の三木谷浩史氏と、ネットオークション企業、ディー・エヌ・エーの代表取締役社長南場智子氏の名前を挙げる。ハーバード・ビジネス・スクールで学んだ二人である。

「成功は、とかく他人からねたみを買うものです」と堀氏は言う。「公の場では発言と行動にはくれぐれも気をつけなければなりません。アジアではビジネスカルチャーの一部になっていますが、事業が好調なときほど控えめな態度に徹することが一番です」。

氏はここで日本のことわざを引き合いに出した。「実るほど頭の下がる稲穂かな」。

この数カ月、日本の経済実績は振るわないが、堀氏は状況を楽観的に見ている。

「私が事業を始めたのはバブルがはじけたあとの1992年ですから、不況がもたらすチャンスというのもあるのです。私は企業レベルの体力は相当強いものがあると考えており、今現在の経済状況はあまり悲観していません。構造改革が断行されて企業は回復力を取り戻し、負債額が減り収益は伸びています。企業はコアビジネスに力を集中していますし、経営陣のレベルも上がっています。ひとつには私たちの大学院で教えていることも効いているのでしょう」。

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息子を学校に迎えに行き、プールやテニスコートに送るのが氏の日課だ。多くのビジネスマンが苦労している仕事とプライベートのバランスを上手にとっているのがよくわかる。それに、新進の起業家にもことあるごとに「楽しむことです」と勧める。

「若い人には一生懸命働きなさいと言いますが、同時に働くことを楽しみなさいとも言い添えています。起業家としてのプロセスすべてを楽しんで欲しいと思っています」。