スピリッツを1杯、サイエンスの味付けを加えて

by Julian Ryall

drink
モレキュラー・ガストロノミー。食物の旨み成分を分子レベルで分析する

この調理方法、グルメのあなたならご存じだろう。 そんなあなたにもモレキュラー・ミクソロジーというのは聞き慣れない言葉かもしれない。

カクテルの概念を打ち破る、お酒と科学がぶつかり合ってできた不思議なテイストの飲み物だ。
細身のトーチランプから低いうなりとともに吹き出る青白い炎が、新鮮なタイムの表面をさっとあぶる。タイムの先端をマティーニグラスの縁に寄りかからせ、下端を液体の表面に斜めに刺す。つぶしたキンカンのうえにプレミアムウォッカを注ぎ、レモン汁をさっとかけたカクテルに、薫り高いタイムをトッピングしたドリンクの完成だ。

ここは銀座の <BarRage>。ミクソロジストは――そう、このバーにバーテンダーはいない――自信に溢れた手つきでカウンターに並んだカクテルの列に、できたての一杯を置いた。並んでいるグラスの一つには深い緑色の液体が入っている。京都から取り寄せた抹茶をベースに、メープルシロップ、レモン、ウォッカをシェイクした飲み物。別のグラスには、輸入ウォッカとトマトジュースという思わず喉が鳴るようなミックスに、グリルしたスライストマトとコショウを浮かせている。

「今まで使われたことのない食材と化学的なひねりを加えて一風変わった料理を作る。この調理法はスペインのレストラン、エル・ブジから知られるようになりました。あの店では真空包装したステーキ肉をハーブと一緒に湯煎用の鍋にいれ、24時間、あるいはそれ以上かけて低い温度でじっくりと調理します。こうすることで不思議なほど強い香味が立つのです」。こう語るのはトム・ハスキンソン氏。42 Belowウォッカの日本におけるブランドマネジャーだ。「こういう調理法はモレキュラー・ガストロノミーの考えから生まれたのですが、今やカクテルの作り方にまで広がりました」。

lead1

この国ではよくあることだが、日本のミクソロジストの達人はそのスキルを欧米とは別の方向に進化させたのだ、とハスキンソン氏は説明する。「4年ほど前になりますが、ロンドン、ニューヨーク、オーストラリアのバーテンダーが料理の技法をカクテルと結びつけて新しいフレーバーを作り出しました。一方、日本では飲食物の自然な風味をなによりも大切にするので、少しでも人工的な味がする飲み物など売り物にならないわけです」。 日本のミクソロジストにとっては、新鮮このうえないフルーツと最高のスピリッツを混ぜ、スマートな店内で魅力的に客にサーブする、これがすべてだ。「完璧な飲み物を作るにはすべての材料をきっかり正確な量で組み合わせることが大切です」。こう語るのは一守邦泰氏。<Bar Rage>の副社長だ。 パッションフルーツを繊細なナイフ使いで二つに割り、トーチランプで果肉の表面をカリッとあぶる。ちょうどクレームブリュレのようだ。「必要なのは最高品質のウォッカ、その日の朝入荷したばかりの新鮮なフルーツ。道具も大切です。そして仕上げにハートをたっぷり注ぎ込みます」。

新作のカクテルを一滴、親指と人差し指の付け根に落として味見をした一守氏は、スムーズな口当たりのグレイグースがお気に入りだと語る。最高級のバケットやクロワッサンに使われる小麦を原料に、フランスのコニャック生産地で作られるウォッカである。

kudeta-10 ここ以外のバーでもミクソロジストは大胆な作品をたくさん生んでおり、新たな体験を求めるカクテル好きから強い支持を得ている。世界中からカクテル界の一流どころがパリに集まり、2日間にわたる“サミット”に出席して、業界の未来について意見を交換したのは3年前のことだった。リカー会社のボルスが主催したこの集いに出席した人は、科学がマティーニと出会うとどんな素晴らしいことが可能なのかを目の当たりにした。エルヴ・ティスというミクソロジストが、

液体窒素がものの温度を冷やす特性を活かし、アルギン酸ナトリウムを用いて、業界内で“パール”と呼ばれるべたべたしたボール状のアルコール飲料の作り方を披露した。

これを見たミクソロジストは夢中になって化学の実験セットを揃え、実験を始めたのである。こうしてできあがったのが、飲み物の表面に浮く香り豊かな泡、固形の“ドリンク”(矛盾した呼び名だが)だ。さまざまなカクテルを組み合わせて生まれたパールのバリエーションは、口のなかでぱっと弾け、香味が口いっぱいに広がる。

ニューヨークのバー、<テイラー>のエベン・フリーマンはごく小さなジントニックを完成させたミク

ソロジストだ。重炭酸ナトリウムとクエン酸の働きでシューと泡立つライムのチップを作り、これに砂糖をまぶし、ゼリー状のジンとキニーネのうえに乗せた。その後フリーマンのオリジナリティーは、ケロッグのシリアル、ライス・クリスピーを用いた作品でさらに顕著に表れる。ライス・クリスピーをウォッカ、カルーア、そしてスパイスに何度も浸し、しかる後に自然乾燥させたうえで凍らせ、今一度ウォッカに沈めてサーブする。

ミクソロジストが地球規模で演じる競争が高じて、奇妙な組み合わせがますます増えているが、なかには驚くべき効果を発見した作品もある。コーラシロップを桜とハンノキのチップでスモークすると、芳醇な大地の香りを帯びるようになる。

ショットグラスのバーボンとともにこれを供された客は、シガレットにも似たスモーキーな香りを心ゆくまで楽しめる。シガレットを吸えるバーがほとんどないご時世が生んだ一杯だろう。

慧眼の持ち主ハスキンソン氏だが、このトレンドが日本で本当にヒットするか確信を持てないでいる。

shugo 「2、3年後、人々が次なる新しいものを探し始めるころには、そうですね、ここ東京でもおもしろいシーンが見られるかもしれません」。マティーニグラスを手にした氏はそう語る。中身は一分の違いなく計量したウォッカと、洋なしのジュース、グレープフルーツ、それにセージの葉を一枚トッピングしてある。「しかし、決め手となるのはやはり日本のカクテル好きの嗜好だと思います。

「だからといってミクソロジストが困ることはないでしょう。世界的にも彼らの腕は最高レベルだし、この国には取り組むべき素材はいくらでもありますから」と氏は言って、こう付け加えた。「東京にたくさんあるバー、彼らの創造力はたいへんなものです」。

Featured Cocktails

strawberryイチゴと和三盆のマティーニ

  • グレイグース 60ml
  • イチゴ 3〜4粒
  • 和三盆 2tsp
イチゴ&和三盆 ボストンシェーカーにカットしたイチゴを3〜4粒入れる。ペストルで潰した後に、 和三盆を加えグレイグースを注ぎシェイクして出来上がり。最後に、和三盆を振りかけたイチゴをデコレートします。

maccha_cinamon抹茶とシナモンのカクテル

  • グレイグース 45ml
  • 水(軟水) 45ml
  • 抹茶 2tsp
  • シナモンシロップ 2tsp
  • シナモンステック(デコレーション)
抹茶とシナモンのカクテル 抹茶を水に溶かし、茶せんで泡立てます。グレイグース、シナモンシロップを入れてシェイク。ロックグラスに注ぎ、シナモンステックを添えます。

bar_rage2BAR RAGE
青山店
営業時間18:00 ~ until midnight…
年中無休
〒107-0062
東京都港区南青山7-13-13 BULLS 3F
Tel: 03 5467 3977
※貸切可 (料金・内容の詳細につきましては、ご連絡ください)



銀座店
営業時間 18:00 ~ 翌 5:00
土曜) ~ 2:00
日・祝休
〒104-0061
東京都中央区銀座8-5-24
銀座BOSSビル4F・5F(ソニー通り沿い)
Tel: 03 5568 1968
www.mixologist.co.jp/bar_rage/